「父親の背中は、台所にもある」

「お父さん、今日の味噌汁ちょっとしょっぱいよ!」
夕食の席で、長男がそう言って笑った。
その一言が、なぜか嬉しかった。
昔の俺なら、仕事から帰ってきて疲れ切って、台所に立つ余裕なんてなかった。
だが今は違う。家族の笑顔を見るために、フライパンを握る。
思えば、子どもにとって“父親の背中”って何だろう?
昔は「働く姿」「汗を流す姿」だったかもしれない。
でも今の時代、背中を見せる場所は外だけじゃない。
台所にもあると思うんだ。
料理をしていると、家族との距離がぐっと近くなる。
鍋をかき混ぜながら、子どもの学校の話を聞く。
味見をしながら、妻の今日の疲れを感じ取る。
そんな時間が、どんな会議よりも大切に思える瞬間がある。
「料理なんて女の仕事だ」なんて言葉、もう昔の話だ。
俺は思う。
料理は“家族の命を守る最前線”だ。
救命士の現場で“命をつなぐ”ことを学び、家庭では“心をつなぐ”ことを学んだ。
どちらも、本気で向き合わないと結果は出ない。
包丁を研ぐ音。
味噌汁の湯気。
フライパンの油の音。
それらすべてが、家族の記憶に刻まれていく。
俺がいなくなった後も、「あの音、懐かしいな」と思い出してもらえたら、それで十分だ。
父親が家事をすることは、家族に“完璧”を見せるためじゃない。
“寄り添う姿勢”を見せるためだと思う。
「父さんも頑張ってる」「不器用でもやってみる」——
その姿が、子どもにとっていちばんの教科書になる。
-1024x573.jpg)
料理は小さな行動だけど、
その中には「思いやり」「忍耐」「工夫」……人生のすべてが詰まっている。
焦がしたっていい。失敗したっていい。
その背中を、子どもはちゃんと見ている。
俺は、救命士として命を救ってきた。
でも今、父として守りたいのは“家族の笑顔”だ。
台所という日常の現場で、今日もエプロンを締める。
父親の背中は、
仕事場だけじゃなく、台所にもある。
——それを、これからの時代に伝えていきたい。
-1024x573.jpg)
コメント