これから乾燥する季節になり、火災も多くなる時期です。元救急救命士ですが、消防士としても現場活動をしてきたり、火災原因調査をした経験から本日はお話しようと思います。最後まで読んでいただけると幸いです。
真冬の夜だった。
風が強く、乾いた空気が肌を刺すような寒さの中、指令が鳴った。
「住宅火災、2階建て木造、通報者は近隣住民」
救急車で現場に向かう途中、赤色灯が静寂の街を照らしていく。
“またこの季節が来たか”――そう思いながら、胸の奥がざわついていた。
現場に着くと、2階の窓からオレンジ色の炎が勢いよく噴き出していた。
近所の人が叫びながら、ホースで水をかけている。
後からわかったことだが、原因は「ストーブの近くに干していた服」。
「少しの間だけなら大丈夫」と思ったその油断が、家を、家族を、そして日常を奪った。

火の怖さを“知っているつもり”になっていませんか?
火の怖さを語ると、多くの人がこう言う。
「気をつけてますよ」「火事なんてそうそう起きませんって」。
でも、私が見てきた現場では、“そうそう起きないこと”が起きていた。
火災は、爆発のように突然起きるわけではない。
最初は、ほんの小さな火種。
乾いたカーテンや衣類、紙くずに触れた瞬間、
“シュッ”と音を立てて、炎が一気に立ち上がる。
そして、条件が揃い早ければわずか30秒で部屋全体が煙に包まれる。
驚くかもしれないが、
火災現場で「煙」によって命を落とす人は多い。
炎そのものより、先に広がる煙が視界を奪い、呼吸を止めてしまうのだ。
逃げ道を見失い、あっという間に“命の出口”が塞がれる。
私は何度もその現場を見てきた。
そして、何度も思った――「あと30秒早ければ」と。

なぜ、火は“乾燥”に強いのか?
冬になると、湿度は40%以下になる日が多い。
この乾燥状態では、紙や布、木材がほんの少しの火で燃えやすくなる。
つまり、「火が広がる条件」が整ってしまうのだ。
たとえば、ストーブの近くにあるカーテンやソファ。
たった数センチの距離でも、熱が伝われば自然発火のリスクがある。
また、エアコンの温風や静電気による“風の流れ”が、
炎を予想外の方向へ広げることもある。
火は、私たちが思っている以上に“生きている”。
火を恐れるより、“敬う”こと
火は悪ではない。
料理をつくり、部屋を温め、命を支える存在でもある。
でも同時に、“一瞬で奪う”側面を持っている。
だからこそ、火を恐れるのではなく、敬うことが大切だと私は思う。
家にある火元を、今夜もう一度見直してほしい。
ストーブの周りに、燃えるものは置いていませんか?
たばこの吸い殻は、確実に消していますか?
コンロの周り、新聞やキッチンペーパーが近くにないですか?
火事は、他人の家で起こるものではない。
“自分の家でも起こりうる”――その意識が、命を守る最初の一歩になる。

さいごに
私は、何十件という火災現場に出動してきた。
そのすべてに「まさか自分が」という言葉があった。
だから、私はこの言葉を伝えたい。
「火の怖さを、知っているつもりにならないでほしい。」
今日もどこかで、誰かが暖をとっている。
そのぬくもりが“悲しみの火”に変わらないように――
火を大切に扱うことが、命を守る最大の防災になる。

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