直感が働いた、あの夜のこと。
その日の夜、玄関の扉が静かに開いた。
靴音がいつもより重く響く。
「ただいま…」
妻の声のトーンが、いつもより半音ほど低い。
その瞬間、胸の奥がザワッとした。
——やばいな。今日は話を聞いたほうがいい。
救急現場に出ていた頃、指令音に似た音が耳に入ると、
瞬時に身体が反応したあの感覚に似ている。
何か“いつもと違う”気配を察知すると、
五感のどこかが勝手に動く。
あの24年間で染みついたものは、
どうやら家庭でも発動するようだ。

妻の表情の奥にあったもの
リビングの灯りの下で、妻の顔を見ると、
疲れがにじみ出ていた。
目の奥が沈んでいる。
「今日、どうした?」
私がそう声をかけると、
妻はため息をつきながらポツポツ話し始めた。
「タスクが多すぎて、どこから手をつければいいか分からなかったの…」
その声は少し震えていた。
私は黙って話を聞いた。
話を遮らず、ただ受け止めるように頷き続けた。
救急現場と違って“処置”は必要ない。
ただ隣で支えるだけでいい。
話が一段落した頃、私はキッチンに立った。
料理は好きだ。
包丁の「トントン」という音が、心を整えてくれる。
夕飯を一緒に食べる頃には、
妻の表情はいつもの穏やかな顔に戻っていた。
——ああ、良かった。
家庭の平和が戻ってきた。
そんな安堵が胸に広がった。

少し前、
「これは絶対ウケるだろう」と思って投稿したSNSが
全く伸びなかったことがあった。
直感がズレた瞬間だ。
でも、あの夜の妻との出来事を思い返すと分かる。
直感は当たりも外れもある。
大事なのは、「何に基づいて直感が働いているのか」を理解することだ。
妻の表情は、24年間の救急経験と、20年以上の夫婦関係の積み重ねが
“無意識のデータ”として蓄積されていたから気づけた。
一方でSNSは、まだ経験値が浅い。
だから外れる。
直感は魔法じゃない。
経験というデータの量と質で精度が決まる。
今日の教訓
人の表情や空気の変化を“感じ取る力”は、経営にも活きる。
その通りだと思います。
スタッフの表情、利用者さんの小さな変化、
チームの空気の揺らぎ——
数字やマニュアルだけでは絶対に分からないものがある。
救急現場でも、家庭でも、施設経営でも共通しているのは、
“人は言葉になる前にサインを出している” ということ。
そのサインを見抜くのが直感であり、
その直感は、日々の経験の積み重ねがつくり上げるものだ。
私も、そしてあなたも、
まだまだ直感を磨いていく途中なのだと思う。
今日も誰かの表情や空気の変化に
そっと気づける自分でありたい。
「自分が幸せでなければ、他人を幸せにできない」という信念のもとに。
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